[道教儀式]建醮(神壇による祈祷儀式)
今回はよりディープな道教の宗教儀式「建醮(ジエンジアオ)」(神壇による祈祷儀式)を、その他さまざまな道教の儀式と合わせて紹介してまいります。
[目次]
建醮について
※中元普渡の儀式
建醮は作醮や做醮とも呼ばれ、平安醮(祈安醮もしくは清醮)、中元醮、水醮、火醮、王醮、慶成醮などいろいろな種類があります。中元節に悪霊たちをもてなす「中元普渡」の儀式である中元醮や、伝染病を駆逐することを目的とした「焼王船」として知られる王醮、廟の建物が完成した際に行われる「慶成醮」もその仲間に入ります。火醮や水醮は、火災や水難で亡くなった魂を供養するために行われます。
この記事では、一般的に言われるところの「平安醮」を紹介してまいります。
※南投県竹山で行われた建醮の案内
醮とは、もともとは「神様を祀る」という意味であり、それがだんだんと「道士が神壇を設置し神様を祀る」という意味合いに変化してきました。
建醮は、神様のご加護に感謝し平安を祈ることを目的とした宗教儀式です。道士を呼び、儀式が行われる道場を設置し、一日以上の日程で行われます。
一般的に毎年行われるものではなく、数年から十数年に一度、中には数十年に一度といったタイミングで行われます。そしてその多くは、占いにより神様にお伺いをたて、開催の有無や日程を決定します。開催の間があけばあくほど、より盛大になっていくようです。主に立冬以降の冬の時期に行われています。
昔は村の集落の住人たちがお金を出し合って道士を呼び、祈祷の儀式を行っていました。しかし貧しい村人たちには費用負担の問題が大きく、数年や十数年に一度だけ行われるようになりました。そして時代の流れの中で、現在のような方式に変わってきたものだと思われます。
主催する廟に近隣の廟が協力することで、街全体が一つとなり、通常は数日から一週間程度の奇数の日数で開催され、長いものになると一か月以上続く大規模な儀式となっていきます。建醮では一日(24時間)を一朝と表し、三日間の場合は三朝、七日間は七朝となります。建てられる神檀の数も、5ヵ所、7ヵ所、9ヵ所、12ヵ所など様々です。
Youtubeで紹介動画を探してみたのですが、あまりいい動画が見つかりませんでした。そこでなんとなくどんな感じの儀式なのか、次の動画でざっくり感じ取っていただければと思います。
開催する廟によっても変わってきますが、かなり大規模な儀式であることが見て取れたかと思います。
参加する地元民は、中元普渡と同様に儀式でお供えするお供え物を購入します。廟にお金を支払って申し込めば、あとは勝手にやっていただけます。
またこの儀式が始まる前の数日間は、その地域に住む人々は素食(肉なしの食事)にしなければならず、街すべてのレストラン、食堂から肉料理が一斉に消えます。
私の住んでいた街でも建醮があり、私も参加しました。儀式が始まる前3日間は当然肉抜き生活です。また儀式の期間中は、地域の学校が休みになったりもします。
建醮の様子
建醮は道教の中でもかなり盛大な儀式になります。
この期間は街全体が一体となり、家々の入り口には写真のような垂れ幕(門彩)や提灯(平安燈)が掛けられます。この垂れ幕は儀式の期間が過ぎても飾られたままになります。
期間中、街の中数か所に大きな仮設の「神壇」が設置され、お供え物が並べられます。主壇は主催廟の中に建てられ、副壇は地域内の角頭廟(それぞれの地区を管轄する廟)が設置します。
神壇の上にはさまざまな神様が祀られています。道教の神様に詳しい方は、じっくりと観察してみても楽しいですね。
夜になると神壇は美しくライトアップされ、遠くからでも目を引きます。昼と夜ではまた現場の雰囲気も変わってきます。
建醮を主催する廟や地域によって、それぞれ特色が見られます。
観光客はその地域に点在する神壇や廟を見学してまわります。ただし外部の人は、主催廟の神壇には立ち入れないこともあります。
こうした独特の飾りつけが、建醮の雰囲気を盛り上げています。ただよほど道教に詳しい人ではない限り、神壇の詳細はなかなか分からないかもしれません。
廟や神壇にはお米で形作った龍(米龍)が飾られています。
これは占いなどで使われる八卦の後天図のようです。
手前に祀られているのは五營將軍ですね。奥の神様ははっきりと見えませんが、玄天大帝でしょうか。
建醮において遶境(巡行)が行われることはあまりなく、祈祷メインの儀式になります。
逆光のためやや見づらいですが、廟や神壇前において、招かれた道士や信者たちにより祈祷が行われます。
普段なかなか見ることのできない独特な道教儀式を見物することができるでしょう。
建醮期間中、このような感じで廟や神壇において祈祷の儀式が行われ、観光客も見物することが可能です。
日が暮れてくるとライトアップされた神壇の前では、歌謡ショーや辣妹によるセクシーダンスが行われます。夜市も開かれ、屋台料理やゲームなどを楽しむこともできます。
地域によっては、このように大規模な建醮が行われることもあります。
余談ですが、建醮が行われていたとある廟を見学していた際、私が日本人と分かると、ものすごい歓迎を受け、廟の応接室に通されました。そこに大勢の人が集まり、誰が私を案内するかの話し合いが行われた後、点在する神壇や廟を車でいろいろ回っていただけました。台湾の方々の親切さを強く感じた経験です。
その他道教儀式
台湾道教では、建醮やこのブログで紹介した中元普渡、収驚、祭改、擺香案以外にも、大小さまざまな儀式が行われています。道教の儀式は主に「齋醮科儀」と称されます。
<道教儀式一覧>
1.建醮 ※この記事にて解説
2.祭煉(煉度) 水や火を使い、死者の魂を苦海から救い出す。
3.齋法 道士らが食生活や性生活で節制を行う方法。
4.發爐與復爐 この世とあの世をつなぐ儀式
5.三獻禮 儀式における礼節
6.解冤釋結科 この世にはびこる恨みや無念などを取り除く
7.做功德(黃籙齋) 亡霊を成仏させる儀式
8.安胎 安産を祈祷する
9.拔度 地獄から亡霊を救い出す儀式
10.禮斗 災厄を取り除くための儀式
11.祭解(補運) ※祭改の記事にて解説
12.安太歲 その年の太歳を祀る
13.安五營 五營將軍の小廟を設置する儀式
14.犒軍(賞兵) ※拝土地公の記事にて解説
15.遶境 ※進香とはの記事にて解説
16.進香(刈香、刈火) ※進香とはの記事にて解説
17.分香 分霊の儀式
18.點光明燈 一年の平安を祈り廟へ光明燈を奉納
19.收驚 ※收驚(お祓い)の記事にて解説
20.普度 ※陰廟とはの記事にて解説
21.放水燈 普渡の前日に水燈を流し、水鬼を招く
22.扶鸞(扶乩) 神様の意思を汲み取り伝える儀式
23.開光 神像を工芸品から神聖な存在へと変える儀式
24.灑淨 水を用いて穢れを取り除く儀式
25.安座 神像を廟内に鎮座させる儀式
26.過火 火を渡り、穢れや厄災を取り払う儀式
27.暗訪 ※進香とはの記事にて解説
28.謝平安 秋の収穫に感謝をする儀式。下官節と同一視される
29.驅邪 悪霊がもたらす災いを取り除く
30.輦轎 神輿のことを指す
31.過爐 ※進香とはの記事にて解説
32.掛絭 神様からいただいたネックレスを子供にかける
33.鑽轎腳 神輿の下をくぐる
34.牽水(車+藏) 水難でなくなった亡霊を地獄から救い出す儀式
35.牽亡 日本でいうイタコのようなもの
36.觀落陰 生きている人の魂をあの世へと導き、亡くなった人と会わせる儀式
37.超拔(打城) 地獄に閉じ込められた亡霊を救い出し成仏させる
[参考] https://religion.moi.gov.tw/Knowledge/List?ci=2&cid=10
一方で伝統的な道教儀式では問題もあり、神像開光の儀式では「開光鶏」など生きた動物や昆虫の生贄を使っています。民間で行われる儀式の祭三喪や壓煞でも「帯路鴨」など生きた動物の生贄が使用されます。平安醮では殺生を禁止していますが、焼王船においては生きた動物の生贄が用いられます。ただしこれらは近年、動物虐待として大きな問題となっています。
最後に
何度か遠征して観に行きましたが、建醮は観光するためのイベントではないため、道教文化に興味がない人にとっては、あまり見どころがないかもしれません。かく言う私も、正直なところそれほど興味はわいてきませんでした。
建醮は台湾全土でみると結構な頻度で行われていますので、もし興味がある方は、日程を調べて一度見学に行ってみてはいかがでしょうか。
[参考HP]
https://religion.moi.gov.tw/Knowledge/Content?ci=2&cid=172
http://www.shs.edu.tw/works/essay/2009/03/2009032908132097.pdf
[建醮日程等紹介FB]
2019盛典 大廟建醮活動 - ホーム | Facebook
このブログでは、 毎年台湾で数十万人が参加し、最大の盛り上がりを見せる道教巡礼イベント「徒歩進香」を紹介しています。信徒でなくても、旅行者でも気楽に参加できます。
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