台湾の仏教行事の中にも「進香」や「遶境」に似たイベントがあると聞きつけ、早速二つのイベントに参加してきました。一つは台南市で行われる観音菩薩の里帰り、もう一つは高雄市で行われる観音菩薩の地域巡行という仏教イベントです。今回はそれらイベントの詳細について紹介してまいります。
実際台湾では、道教と仏教が深く融合しており、その境界線はかなり曖昧です。その中でも特に観音菩薩は、道教、仏教の間に存在している神様(仏様)と言ってもいいでしょう。
私はこれらイベントを、歴史的背景および「佛祖」という名称から仏教に分類していますが、台湾の知り合いは道教に分類されるのではないかと言っていました。台湾人でも分類することはなかなか難しいようです。
[目次]
東山迎佛祖
概要
【東山迎佛祖】
主催寺院:東山碧軒寺[1844年建立]
《送佛祖》
目的地:火山碧雲寺(台南市白河区)
開催時期:旧暦12月23日
開催期間:1日
移動距離:約15km
《迎佛祖》
出発点:火山碧雲寺(台南市白河区)
開催時期:旧暦1月10日
開催期間:1日
移動距離:約25km
参加費:なし(申込不要)
参加人数:数千人
特徴:重要無形文化遺産に登録された数少ない仏教行事の一つ。旧正月前に碧雲寺へ向かい、旧正月後碧軒寺へ戻る
アクセス:北東山バス停下車30秒(新営駅からバスで25分)
参考HP:
《送佛祖》ルート
《迎佛祖》ルート
行事について
神輿は朝7時ごろ出発となるため、前夜は近くの街に宿泊し、始発のバスに乗りこみました。6時すぎに碧軒寺に到着すると、すでにそこには長い長い列ができています。並んでいる方に話を聞くと、どうやら結縁品(記念品)がもらえるようです。
まずは仏様(観音菩薩)にご挨拶です。個人的なことや行事が無事に行われることをお祈りしました。
廟の外に出ると無料の朝食が振舞われており、その前の道には、500m以上に及ぶ長い長い列が出来ていました。これは「鑚轎脚」を待つ行列です。
そしてなんと、「乩童」の姿を見かけました。道教特有の存在だと思っていた乩童ですが、仏教イベントにも参加していたことに驚きです。
子どもたちによる陣頭です。みんな長い木の棒を持ち歩いています。小さい子もいてとても可愛いですね。子どもたちのほかには、菅笠を手にした老人のグループぐらいで、陣頭はとてもシンプルです。
多くの住民の方が「擺香案」(食べ物や線香を供え、金紙を焼く)をして、熱心に拝んでいます。
頭旗グループに追いつきました。頭旗に頭燈、なんだか道教の進香にそっくりですね。
ルート上の所々には、写真のような補給ポイントがあります。
頭旗に追いついたあたりで、進香仲間に会いました。そこからしばらく雑談しながら歩きます。ただ基本一人で歩くことが好きなので、しばらく一緒に歩いた後は、再び自由行動です。
最初の中継ポイントに到着です。どう見ても道教の廟ですね。お参りをして先に進みます。「古香路」と呼ばれる昔ながらの山道までには、再び神輿と合流する計画です。
学校がすでに春節の休みに入ったようで、このイベントには多くの子どもたちが参加していました。きっとハイキングのような感じなのでしょう。
こちらの中継ポイント(廟)では大根餅が振舞われており、美味しくいただきました。 頭旗から大分先行してしまったようで、周りの参加者はかなりまばらになっています。
ここも昔は舗装のない山道だったのでしょう。遠い昔に想いを馳せながら歩き続けます。青空の下歩く田舎道は、本当に気持ちがいいですね。
次の中継ポイント(廟)でも、お参りの後はまた軽食休憩です。時間調整のために、すこし長めの休憩をとりました。
再び歩き始めると、道はだんだんと上り坂になってきました。参加者のおばあさんたちと雑談しながら上っていきます。 この区間は竹林を吹き抜ける風を浴びながら、気持ちよく歩けました。
そして山道「古香路」に突入する前の最後の中継ポイント(廟)に到着です。エネルギーを補給しながら、神輿の到着を待ちます。
廟の建物の中で休憩していると、神輿が多くの参加者を引き連れやって来ました。
いよいよ昔ながらの山道である「古香路」に向かって出発です。最後は神輿と一緒にゴールを目指します。
少しずつはぁはぁと息が切れはじめてきました。山道はだんだんと険しさを増していきます。 足元が不安定なため、みなうつむきながら山を登っていきます。想像以上に険しい山道に、私もすこし神輿から遅れ始めました。
写真ではなかなか伝わりませんが、かなりの急こう配です。
急こう配の前では、神輿グループはしばし休憩を取り、体力を回復させます。
神輿がたくさんの信者を引き連れ急こう配を上ってきます。古香路のハイライトらしく、多くの人たちが坂の上でカメラを手に神輿の到着を待ち構えていました。
一番の難所を越えると、道はやや平坦となり、ようやく先が見えてきます。
当日は本当にいい天気に恵まれ、気持ちよく歩くことができました。ここから先は、神輿より少し先行します。
やっと枕頭山の山頂が見えてきました。美しい景色に、疲れた身体も癒されるようです。
いよいよゴールの碧雲寺が視界に入ってきました。この美しさを、写真では表現しきれないところが残念でなりません。
碧雲寺までの最後の道のりは、神輿や多くの信者の方たちとともに歩きます。
こちらのおばあさんも杖を手にここまで歩いてきたようです。その信仰心の強さに、感動すら覚えます。
碧雲寺前駐車場からの眺めもいいですね。 この高さまで登ってきました。
そしてようやく目的地の碧雲寺に到着しました。他の参加者の皆さんとともにお参りをして、これで「送佛祖」は無事終了です。
お寺を出てすぐに碧軒寺まで戻る送迎バスの列に並びましたが、ものすごい長い列に、結局この時間が一番疲れたように思います。
東山に戻り、碧軒寺にお礼の報告をして帰路につきました。
羅漢門迎佛祖
概要
【內門紫竹寺羅漢門迎佛祖遶境活動】
主催寺院:内門紫竹寺[1733年建立]
開催時期:不定
開催期間:4日間(2019年より土日のみ開催)
移動距離:約76km(4日間計)
参加費:なし(申込不要)
参加人数:1万人以上
特徴:重要無形文化遺産に登録された仏教行事の一つ。お寺の周辺地域を4日間に分けて巡行する。
住所:高雄市內門區觀亭里中正路115巷18號
アクセス:観音亭バス停下車1分(台南駅からバスで約85分)
参考HP:內門紫竹寺
行事について
200年以上の歴史を有し、内門区および周辺地域が参加する宗教行事です。さまざまな儀式や芸術的武芸の陣頭「宋江陣」が有名であり、区内全住民が総動員で参加する、高雄における盛大な民俗文化行事の一つとなっています。1969年、政治的な要因で分離し建立された内門南海紫竹寺が独自に遶境を実施するようになり、2010年には高雄政府の調整により両寺が初めて共同で遶境を行い、その後は3年ごとに交代で実施することとなりました。
2018年から3年間は内門紫竹寺が主催を行います。2019年にはこれまでの4日間連続の実施から、土日2回計4日間実施へと変更となりました。その背景には、宋江陣などの陣頭に参加する地元民、特に他地域にいる若者たちの休日調整が困難という問題があげられます。
また内門紫竹寺が管轄し遶境が行われている地域では、数々の不思議な出来事が起きており、このことも強い信仰心へとつながっているようです。
迎佛祖レポート
遶境イベントの名前は知っていたのですが、当初参加する予定は全くありませんでした。しかしとある徒歩進香を途中リタイアした後、進香仲間からのススメがあり、急遽このイベントに参加することを決定しました。
公共交通機関に乗り、朝7時の出発に間に合わせるためには、どうしても現地に前泊する必要があります。当日乗せて行ってくれるという方もいましたが、一人好きの性なのか、余計な気を遣うよりはと自力で行くことに決めました。
紫竹寺には香客大楼がないため、近くの街「旗山」に前泊して、早朝にタクシーで向かう計画です。
旗山を訪れるのは今回が初めてですが、佛光山と合わせてもう一度訪れたいと思える心地いい雰囲気に包まれた街でした。ちなみに宿泊先は、台湾の知り合いにさえ「そんな安いところがあるの!?」と言われるような安宿です。
翌朝早起きして、事前に連絡先を入手しておいたタクシーに乗り、紫竹寺を目指します。ちなみに旗山から紫竹寺まではタクシーで250元でした。
6時過ぎに到着した時はまだ人影がまばらだった寺院前も、お参りをして辺りをぶらついている間に、だんだんと熱気に包まれてきました。
澄み渡った青空の下、信者の集団は三基の神輿の後に続き歩きだしました。敬虔な信者の皆さんは、大きな線香を手に歩いています。写真のように神輿の後ろはすごい人ごみです。
多くの信者の方が神輿の後ろに続き歩いています。個人的に遶境はあまり好みではないのですが、このように多くの人が神輿に付き添うイベントは、その限りではありません。
しばらく神輿の後ろを歩いた後は、神輿のそばを信者の方々に譲り、少し先行して歩きます。アップダウンが続く山道ですが、青空の下、田舎道を歩くのは本当に気持ちがいいですね。
頭旗グループを追い越すと、周りを歩く参加者の姿は大分まばらになってきました。
立ち寄り先の廟では、どこもたくさんのお供え物が準備されています。
このイベントで最も感動したところは、地元の敬虔な信者の方々の存在です。山道を進むルートの中、途中多くの集落を通過します。そこでは写真のように、たくさんの住民の方が飲み物や食べ物を準備して私たちの到着を待っていてくれました。中にはビールやたばこまであります。これは東山迎佛祖では見られなかった光景です。
東山迎佛祖では、寺院の服務車や立ち寄り先の廟の方が飲み物や食べ物を提供してくれました。いただいた飲食の量は東山迎佛祖とさほど変わりありませんが、地元住民の方が提供してくれたものは、そのありがたみがまた違ってきます。
こうしたイベントでは、「擺香案」というお供え物を供え、線香を手にして、金紙を焼きながら待つ信者の方々の姿をよく目にします。ただここまで多くの住民の方々が飲食を提供しているイベントは、私が知っている限り、大甲媽祖や白沙屯媽祖の進香イベントぐらいです。こうした「人情味」こそ、道教イベントが私を惹きつけてやまない大きな理由の一つになります。
途中道を間違え2kmほど遠回りをしてしまいましたが、その後なんとか再び神輿の行列に合流することができました。先行しすぎるのも考えものです。
このイベントで素晴らしいと感じたのは、一定距離ごとにごみ袋が設置されていたことです。そのごみ袋のおかげもあり、道を間違えたことに気づくことができました。
逆に残念だった点は、追走するバイクの多さです。非常に多くの関係者や参加者がバイクに乗り山道を行ったり来たりしていたため、徒歩参加者にとっては歩きづらい状況となってしまいました。
こちらは昼食会場に設置された「流水席」です。ここまで大規模なものは初めて見ました。「流水席」とは、大きな入れ物に盛られた食事を、参加者が思い思いにお皿に盛り付けて食べるといったビュッフェのような食事形式です。
進香や遶境ではよほど小規模なイベントではない限り、お弁当ではなく、こうした形で食事が準備されています。
南海紫竹寺まで神輿に付き添い、芸術武芸の陣頭「宋江陣」を堪能した後は、ひとり先を急ぎました。
神輿が内門紫竹寺に戻るまで付き添うとなると、20時すぎになり帰りの電車に間に合わなくなってしまいます。そこで神輿より一足先に内門紫竹寺へ戻り、お参りを終えた後帰路につきました。
また今回は遶境としてのイベント以外にも、道すがら多くの陰廟や陰神の祠を見ることができ、これまた思いがけない収穫となりました。
案内には22kmとありましたが、途中道を間違えたこともあり、実際の歩行距離は30kmオーバーになっていました。
最後に
今回は仏教独自の「進香」や「遶境」を期待して参加しましたが、残念ながらどちらのイベントも道教のものとほぼほぼ変わりありませんでした。
仏教:郊外の山の中に大きなお寺があり、信者はそこで修行する。
道教:街中に廟が点在し、信者は日々お参りに訪れる。
もともと台湾の仏教と道教には、ざっくりとこのようなイメージを持っていました。台湾では仏教と道教の境界線はかなりあいまいであり、あまり変わりがないという話もよく耳にします。実際経験してみると、想像以上に習合が進んでいるように感じられました。特に観音菩薩は、仏教と道教の間に存在する一番あいまいな仏様(神様)なのかもしれません。
余談ですが、私は遍路道を歩いた経験から、仏教ではお大師様(弘法大師)を信仰し、また高野山での結縁灌頂の儀式において、大日如来と仏縁をいただきました。ちなみに神道では、やはり日本人として天照大御神、そして信奉する神田神社に祀られている大国主命を信仰しています。
今回参加した二つの仏教イベントは、ともに楽しく歩くことができました。特に羅漢門迎佛祖は、ぜひもう一度参加してみたいと思える人情味あふれたイベントです。
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