[台湾版福男]搶頭香レポート
台湾版福男とは、旧暦大晦日の深夜に行われる行事であり、毎年旧正月のニュースには、「十年目の悲願達成!」や「史上初!女性が勝ち取る」といったような文言がおどります。今回はこの道教行事、「搶頭香」をレポートしてまいります。
[目次]
搶頭香とは
まずはこちらをご覧ください。
上空からの撮影は見ごたえがありますね。私は常々あの集団の中で廟に走りこむ一人になりたいと思っていました。
旧暦の大みそか深夜、線香を手にした人たちが一斉に廟に駆け込み、先を争い炉に線香を突き立てます。一番最初に炉に挿された線香は「頭香」と呼ばれ、信者たちは新たな一年の幸福を願い、頭香ゲットを目指し走るのです。さらにそれだけではなく、頭香を勝ち取ることで豪華な記念品をもらえることもあります。
歴史的に見れば、頭香とはもともと一日の朝、最初に供えられた線香のことを意味し、地元の有力者らが優先的にお供えしていました。さらに新年の頭香ともなれば、より高い価値があるのでしょう。現在のような旧暦の元旦に先を争う形式は、近年廟の名声を高めたい人たちによって作り上げられたものです。
毎年1月に日本の西宮神社で行われる福男と似ていますね。ただ台湾の場合、西宮神社ほど距離はなく短距離勝負になります。
南瑤宮では2020年より搶頭香のルートを変更して、約2kmのロングコースとなりました。参加費は200元、しかも一位の人には8,888元の賞金がでます。ここまでくると、もはや完全に娯楽性の高いイベント化していると言っていいでしょう。
実は昨年の大年三十(旧暦の大みそか)にも、私は搶頭香に参加するべく鹿港に行ったのですが、残念なことに搶頭香は行われていませんでした。有名な廟ならばどこでも行われているだろうという思い込みからくる失敗です。
そこで今年は事前にしっかりと情報を調べました。結果有名なところでは、大甲鎮瀾宮、新港奉天宮、彰化南瑤宮、西螺福興宮などで行われていることがわかりました。ということで、新港奉天宮の搶頭香に狙いを定め、その隣町の北港で年越しをすることに決めました。
大みそか深夜から初一の早朝にかけて、新港奉天宮(23時15分開門) ⇒ 北港朝天宮(23時20分開門) ⇒ 北港武徳宮(5時15分開門)と有名な3つの廟の搶頭香をめぐる計画です。
新港奉天宮の搶頭香
拠点とした北港から廟のある新港までは、20時半の最終バスで移動しようと計画していました。しかしバス乗り場に行くと、なんと大みそかは運休。田舎町では流しのタクシーもほとんど見かけません。そこでホテルで教えてもらったタクシー会社に連絡し迎えに来てもらいました。新港までは15分ほど、運賃は春節料金の250元です。
21時半ごろ奉天宮に到着すると、廟の前ではすでに数人の若者が場所取りをしています。どうやらあそこがスタートラインとなるようです。23時15分の搶頭香までは2時間弱、この時点で並べば最前列をキープできそうですが、まだまだ並びません。
廟前の路上ステージでは大みそかの音楽会が開かれています。有名な廟なので芸能人が来るかもと思い観ていましたが、どれも素人のおばちゃんたちでした。
まずは奉天宮の媽祖にご挨拶です。そして今年の大甲媽祖遶境進香では、必ずここに歩きつくことを誓いました。
一番早くこの天公炉に線香を突き刺せば勝利です。距離的には50mぐらいでしょうか。
搶頭香用の太い線香は、廟前のお店で1本10元で売られています。すでに火もつけられていました。
22時を回り少しずつ人も増えてきましたが、まだまだそれほど多くはありません。私は本気で頭香を狙っているわけではないので、列の前方はガチ勢に譲ります。
22時半になると、新年の開門に備え廟の扉が閉められました。
見物客も少しずつ増え始めています。
私もこのタイミングで後列に陣をとりました。この辺りならゆっくり走っても大丈夫だろうという位置取りです。
安全と横入り防止のために観客とコースがロープで仕切られます。スタートラインにも同様にロープが張られます。
23時を回り、安全に関する注意が行われます。そしていよいよスタートの時間です。周りを見渡すと、ざっと七、八十人が線香を手に並んでいます。そのうちガチ勢は十数人ほどでしょうか。
カウントダウンの5、4、3、2、1でスタートです。現場での様子はこちらの動画をご覧ください。
実際のスタートではフライングしたもの勝ち状態です。後ろの方でゆっくり走りこむ私の姿もかろうじて映っていました。笑
炉の中に線香を投げ込みゴールとなります。ただコース上では、後ろから押されたり、段差が見えなかったり、ロープに足を引っかけそうになったりと、短い距離の中にも危険が満載です。
最後尾を歩いてゴールした参加者たちの後方から、最後にもう一度手を合わせました。これで搶頭香は終了です。
廟から外に出ると、そこには長い行列ができていました。どうやら「紅包」(お年玉)が配られるようです。せっかくの機会なので並びたかったのですが、この後北港朝天宮の搶頭香が待っているため、すぐにタクシーを呼び北港に向かいます。
北港朝天宮の搶頭香
北港に戻ると、24時近くになっていました。北港朝天宮の搶頭香は23時20分スタートだったため、すでに門は開いています。しかし朝天宮の場合は奉天宮と違い、搶頭香は先を争い順位をつけるものではなく、新年を迎えた際、順番に並んで、その人にとってその年最初となる線香を炉に立てることを意味します。
これが昔から伝わる本来の意味での搶頭香ですね。頭香を奪い合う方式は、伝統から離れた商業化の結果と言えるのかもしれません。ニーズがあるところにはお金が産まれますので。
私の頭香を炉に立てお参りし、北港朝天宮での搶頭香は終了です。その後廟前で配られる「錢母」の列にならんでからホテルへと戻りました。
北港武徳宮の搶頭香
翌朝は4時起きで搶頭香に向かいました。朝天宮から歩いて30分ほどのところに位置する北港武徳宮、荘厳な建物が印象深い廟です。
財神を祀る廟の中でも一番有名な廟であり、商売繁盛を祈る人々が参拝に訪れ、南投県の竹山紫南宮とならんで人気の高い、金運アップにご利益のある廟になります。
搶頭香は5時15分からですが、到着時まだ扉は閉められていませんでした。こちらの搶頭香も朝天宮と同様に先を争うものではなく、列に並んで順番に線香を供えます。
まずは財神から廟内の各神様をお参りして回ります。
荘厳な造りですね。息をのむ美しさです。昨年進香の際に初めて立ち寄ったのですが、その時の感動がよみがえってきました。
一通りお参りを終え外に出ると、すでに扉は閉められ、長い列ができていました。私も細い線香を手に列に並びます。
5時15分、扉が開きました。順番に線香をお供えし、武徳宮での搶頭香を終えることができました。これで金運上昇となるといいのですが......
お参り後は廟前の広場で「發財金」を配る列に並びました。
武徳宮は門も立派ですね。こうして後ろ髪を引かれる思いで廟を離れ、歩いてホテルまで戻りました。
注意点について
※ 各廟の様子は22秒あたりから
新港奉天宮のような先を争う搶頭香の場合、当然それ相応の危険が伴います。現実に毎年けが人も出ているようです。
・場所の取り合いによる喧嘩
・走り込む途中での接触や転倒
・火のついた線香による火傷
などがあげられます。
どうしても頭香を狙いたいという人以外は、後ろの方でゆっくりと歩いて参加した方がいいでしょう。2番も100番も変わりませんから。
また数年前には事故ではありませんが、動画のような「事件」がありました。
彰化南瑤宮で行われた搶頭香において、ボランティアスタッフとして参加していたおじさんが、参加者たちが駆け込んでくる前に突然身をひるがえして頭香を奪ってしまうという、思わず笑ってしまうようなことが起こりました。
ただ頭香とは、外から訪れ廟の扉をくぐった後一番最初に挿されたものだと考えるので、カウントされないとは思います。
錢母・發財金について
旧正月には、「紅包」、「發財金」、「錢母」などが、参拝者に配られます。左が北港武徳宮でもらった「發財金」、右が北港朝天宮でもらった「錢母」です。
「發財金」は、このお金を使用することで、より多くのお金を招く効果があると言われています。本来の意味では、廟から借り入れるお金のことを指します。
「錢母」は、お財布にいれたりすることで金運を上げる効果があるそうです。
「錢母」と言えば、南投県にある竹山紫南宮のものがとても有名です。ここは春節に最もにぎわう廟の一つであり、特に初四にはものすごい人出となります。
毎年旧暦1月1日に配られる独自に製作された「錢母」は、多くの人を惹きつけ、早い人は数日前から並び始めます。当日朝には7万人以上が7kmに渡り列を作ったそうです。
私はさすがに紫南宮の錢母は手に入らなかったのですが、春節にお参りに行った時に發財金をいただきました。
最後に
台湾で春節を過ごす機会がある方は、ぜひ一度搶頭香に参加してみてはいかがでしょうか。参加までしなくとも、見物するだけでも十分楽しいですよ。また「發財金」や「錢母」は、とてもいい記念になると思います。
また元宵節には台南鹿耳門聖母廟にて、「搶春牛」が行われます。これは搶頭香よりもさらに激しい奪い合いになります。より強い刺激を求める方はぜひ参加してみてはいかがでしょうか?
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