[道教儀式]拝土地公(土地の神様を拝む)
台湾を旅していると、民家やお店の前に小さなテーブルを置き、その上に果物やお菓子、飲み物などを並べ、線香を手に拝んだり、紙のお金を焼いているシーンを見かけたことがあるかもしれません。
それは「拝土地公」と呼ばれる日常的な儀式の一つです。
この記事では、拝土地公の儀式、土地公という神様とその歴史、有名な土地公廟、擺香案などについて紹介してまいります。
[目次]
拝土地公とは
これは毎月旧暦初二、十六(旧暦の二日と十六日)に行われる、土地公を拝む日常的な道教の儀式の一つです。一般に「拝土地公」と言ったりしますが、正確には「作牙」または「牙祭」と呼ばれています。
店舗や企業では初二と十六に行われ、老人がいるような一般家庭では初一と十五に行うこともあるようです。
商売はその土地、地区と密接に関係があるため、地区の守り神であり、また財神としての顔も合わせ持つ土地公に、毎月2回日々の感謝を伝え、商売繁盛をお祈りします。商売や財運に関する人気の神様は、土地公以外には財神や關公などがいます。
拝土地公の際に準備するお供え物は、生花、鶏肉、豚肉、魚、三種の果物、三杯のお酒、蒸しパン、麻糬などです。
初二、十六には土地公の廟でも、線香や金紙を焼く煙が途切れません。もしかすると参拝者の中には、「求明牌」(宝くじの当選番号を尋ねる)をしている人もいるかもしれません。
土地公の誕生日にも、多くの人が土地公廟を訪れ、盛大にお祝いが行われます。土地公の誕生日は旧暦二月二日ですが、神様になった日と言われる旧暦八月十五日を誕生日としてお祝いするところも多くなっています。
土地公について
その地区の守り神として愛される「土地公」ですが、正式名称を「福徳正神」と言います。広東系の人たちからは「伯公」とも呼ばれています。神様の序列の中では、より広い地域を管轄する城隍爺の部下にあたります。
土地公は杖を持ち、お爺さんのような外見をしています。
一説によると、昔、中国に張福徳という素晴らしい役人がおり、その死後、張さんを祭った家が裕福になったことから、福徳正神として多くの人たちから祀られるようになりました。
またほかの説では、昔、張福徳という奉公人がおり、仕えている家の娘を父親のもとへ送り届ける途中、娘を助けるため凍死してしまいました。その献身的な行為に心をうたれた主人が、忠僕の彼を福徳正神として祀ったというものです。
人によっては、土地公と福徳正神は別の存在という人もいますが、基本的に同一と考えていいでしょう。では、なぜ別の存在と言われるのかについて考察してみました。
福徳正神は17世紀前半もしくはそれより前、媽祖信仰が伝わったのとほぼ同じ時期に、大陸からの移民とともに台湾本島に伝わったものと思われます。なぜ「思われます」なのかというと、17世紀前半にオランダ、スペインがそれぞれ南部と北部を占拠する前は、文字による資料が全く残されていないからです。
台湾にはもともと、先住民族による自然崇拝などの信仰がありました。それはいまでも石や大樹を崇拝する民間信仰として残っています。そのうちの一つが、農業の神として自分たちの田畑にいる土地の神様を祀る信仰でした。
つまり土地公はもともと福徳正神という神様ではなく、さまざまなタイプの土地の神様が土地公などとして存在していたのだと思われます。その後長い時の流れの中で、台湾土着の土地神信仰や土地公信仰は、中国から伝わった福徳正神信仰と結びつき、段々と一つになっていったものと私は考えています。
またかつて人々は、生前善行を積むことで土地公になれるとも考えていました。中には日本人が死後土地公になったケースもあります。さらには、陰神の有應公が正神に昇格し土地公になったケースや、土地公が昇格して城隍爺になったケースもあるらしく、土地公を調べれば調べるほど混乱は深まっていきます。
[参考]窪徳忠著『中国の土地公と沖縄の上帝君』
田舎の方では地区ごとに小さな廟が建てられており、それが土地公廟です。特に桃園は土地公廟がもっとも密集している地域であり、地元の人々から篤く信仰されています。桃園には土地公文化会館もあるので、土地公の歴史などについてより深く知ることができるでしょう。
都市部に行くと、小さな土地公の廟は姿を消し、大きな廟の中にほかの神様と一緒に祀られることが多くなります。
土地公廟には椅子などが置かれ、地域のご老人たちの憩いの場にもなっています。このようなこじんまりとした土地公廟の雰囲気が、私はとても気に入っています。
より辺鄙な農村地帯へ行くと小さな土地公の祠をよく見かけます。ただ土地公の祠の場合は、陰神(怨霊の神様)が一緒に祭られている可能性もあるので、お参りは注意した方がいいでしょう。
写真のように神像ではなく石碑が祀られている土地公廟もまれに存在します。
地区の守り神、財神以外に、土地公にはもうひとつの顔が存在します。死者の魂を死後7日目に現世へと連れ戻すという大切な役割を担っているのです。そのため「半陽半陰」と言われることもありますが、土地公だけが祀られている場合は、お参りをしても当然問題ありません。
台湾において、中国から伝わった福徳正神信仰は300年以上、土着の農業の神様としての土地神信仰はさらに長く、今となってはさかのぼれないほどの歴史があると考えられます。土地公の祠は、かつて写真のような三粒石(石棚式)と呼ばれる形をしていました。
さらに古くはただの丸い石だったのではないかと推測されます。その一部が土地公となり、そして一部は石頭公に変わっていったのかもしれません。三粒石土地公の多くは、のちに祠や小廟として建て替えられましたが、山地の方に行くと、いまでもこのような土地公の石棚が残され、近隣住民により参拝されています。
私は土地公廟が非常に好きで、いろいろな土地で見かけると必ずと言っていいほどお参りに立ち寄ります。
近所の土地公廟にも日々お参りに行き、時々ボランティアとして廟の清掃にも参加しています。特に初二と十六は参拝客が途切れることなく続き、少し目を離すと片付けたばかりの炉が再び線香であふれかえっています。
中には奥さん(土地婆)がいる土地公もいますので、お参りの際には注意深く観察してみてください。
日本の沖縄にも、土地公は「土帝君」という名で伝わっており、現在でも祠がいくつか残されています。
有名な土地公廟
土地公というと、道教の神様の中でも位が低い存在と認識されています。しかし人気の廟の上位には、土地公の廟がいくつも入っているのです。
土地公廟の中で有名なものには、竹山紫南宮(南投)、烘爐地南山福德宮(新北)、車城福安宮(屏東)、高山巌福徳宮(屏東)があり、竹山紫南宮、南山福德宮、車城福安宮の三宇が三大土地公廟と称されています。
中でも竹山紫南宮は最も有名な土地公廟と言ってもいいでしょう。特に春節に配られる銭母は、金運を向上させると言われており、非常に人気が高く、数kmに渡り長蛇の列ができ、春節の風物詩として毎年ニュースで報道されています。2020年には台湾の宝くじで50億円の当選が出て大きな話題となりましたが、その当選した宝くじはこの紫南宮にある宝くじ販売所で購入されました。
さらに紫南宮では、お金を借りることができます。最高で600元(約2,200円)までとなりますが、博杯(ポエ占い)で神様の許可をいただいた後、窓口で身分証を提示し借りることができます。そしてそのお金を元手に商売をすることで、成功率がグンッと高まると信じられています。(残念ながら、外国人旅行者は借りることができません)
借りたお金は当然一年以内に、同額以上を返済しなければいけませんが、返済率は95%を越えているそうです。また商売がうまくいった人は、借りたお金を何十倍、何百倍にして返すため、非常に潤っている廟の一つになります。紫南宮のトイレを見たらすぐにわかりますよ。
台北から近いところでは、新北市の山の上に烘爐地南山福德宮があります。大きな土地公の像が立っており、廟の境内からは台北や新北の街を見下ろすことができます。ただ交通の便が悪いので、事前によく調べてからお参りに訪れてください。
〇その他有名な土地公廟
- 八斗子福清宮 [基隆市]
- 獅球嶺平安宮 [基隆市]
- 四結福德廟 [宜蘭縣]
- 五結奠安宮 [宜蘭縣]
- 下內埔福安宮 [臺北市]
- 五分埔福德宮 [臺北市]
- 牛埔景福宮 [臺北市]
- 店仔街福德宮 [新北市]
- 深丘福德宮 [新北市]
- 碼頭中莊福德宮 [桃園市]
- 東門堡福德宮 [新竹市]
- 保民宮 [苗栗縣]
- 鎮平福德祠 [台中市]
- 北頭土地祠 [彰化縣]
- 白沙坑文德宮 [彰化縣]
- 崁頂福安宮 [臺南市]
- 島嶼福德宮 [澎湖縣]
- 開台福德宮 [高雄市]
- 埤子頭鎮福廟 [高雄市]
- 關山福德宮 [屏東縣]
ほかにも南投県には、“カップラーメンの土地公“として有名な中寮石龍宮があります。
[参考] 土地廟 - 維基百科,自由的百科全書
尾牙について
作牙(拝土地公)の中でも「頭牙」「尾牙」という儀式は、年初め、年終わりの作牙を意味し、より盛大に行われます。
しかし近年、中秋節が「バーベキューの日」(烤肉節)となったのと同様に、この尾牙も「忘年会」という意味合いになりかわり、尾牙の前後には各企業が盛大な忘年会を催します。
※尾牙パーティを企画する企業の映像
毎年この時期になると、社内では尾牙で行われるくじ引き大会の豪華な景品が話題になったりもします。
拝土地公以外の擺香案
建物の前にお供え物を並べ、金紙を焼き、線香を手に拝む行為は、一般に「擺香案」と呼ばれます。
「擺香案」が行われるケースとしては、一番よく見かける「拜土地公」以外に、「遶境や進香の際に神様に平安を祈るもの」、「地域の平安を守る神兵に感謝するためのもの」、「中元節の時期に怨霊をもてなすために行うもの」などがあります。それぞれお供え物等が異なります。
〇遶境、進香
遶境や進香団の神輿が通過する際には、地域の住民の方々は、家の前にお供えものを供え、金紙を焼き、線香を手に神輿に向かって拝みます。
それにより、その地域を見回りに来た神様に日々のご加護を感謝したり、平安をお祈りしています。
〇犒軍(五營將軍)
毎月旧暦の初一、十五には、地区の平安を守っている五営将軍の神兵に感謝する儀式が行われます。しかし家の前で擺香案を行うケースは、田舎の方以外ではあまり見かけることはありません。
この儀式は「犒軍」もしくは「賞兵」と呼ばれ、ほとんどが地域の廟において集団で実施されており、主に初一だけ行う廟が多いようです。徒歩進香でもおなじみの儀式です。
〇鬼月
旧暦七月は「鬼月」と呼ばれ、鬼門が開き怨霊がこの世に帰ってきて悪さをすると信じられています。そこで廟や家の前では肉料理などのお供え物をならべ、怨霊が悪さをしないようもてなします。(写真は民視新聞より)
旧暦7月には、多くの家や店舗の前などで擺香案を見ることができます。特に旧暦7月15日の中元節には、廟において中元普渡の儀式が行われます。
ただし地域によりその頻度は異なり、鬼月の初日、旧暦7月15日の中元節、最終日の三日間行う地域、主に中元節だけ行う地域、鬼月の一か月間毎日行う地域などさまざまです。中でも基隆で行われる鷄籠中元祭は有名です。
北港などの地域では旧暦5月中旬以降に普渡のための擺香案が行われ、義民爺や好兄弟を拝みます。また葬儀などの際にも擺香案(出山香案)が行われます。
〇拝天公
旧暦1月9日へ日が変わる頃の深夜に天公(玉皇大帝)を拝む非常に重要な風習です。これは「拝天公」と呼ばれます。天公の誕生日を祝うために行われます。
また旧暦12月30日の大晦日にも天公に一年の平安を感謝したり、お祈りする儀式が行われます。多くの家庭では写真のように家先にお供え物を供え、金紙を焼き、爆竹を鳴らします。
〇地基主
低いテーブルの上にお供え物が置かれていた場合は、狭い範囲の土地に棲みついた地基主を拝んでいます。端午節や中秋節などの祭日や尾牙には、家や店舗のある場所を管轄する地基主を拝みます。またの名を五方五土龍神と言います。(画像はYouTubeより)
地基神は陰神になりますが、焼く金紙は銀紙ではないようです。一般的に家屋の中で行われるため、見かけることはほとんどありません。
〇豬哥神(天蓬元帥)
もし夜間に、風俗店の前で金紙を焼いているようなことがあれば、それは「拝土地公」ではありません。拝んでいる神様は、恐らく風俗業界が主に拝む神様・豬哥神です。そうです、西遊記に出てくるあの猪八戒です。
好色の存在として、風俗嬢が男を惹きつけるその魅力を増し、そして風俗店にお客を呼び込む効果があると信じられています。ただ近年では、豬哥神ではなく土地公を拝む風俗店が増えてきています。これまで数多くの廟をお参りしてきましたが、豬哥神を祀っている廟は見たことがありません。
〇神様の誕生日
他には神様の誕生日や節句にも擺香案をします。ただ台湾道教の神様は非常に多いので、すべてを拝まないとしても、年間を通すとそれは相当な回数になります。そこでお供え物などは準備せず、金紙だけを焼くというケースも多くなっています。
〇節句
ほかに元宵節、端午節、中秋節、下元節などの節句にも擺香案が行われます。
最後に
台湾の街角で「拝土地公」の光景を見かけた時は、「そうか、今日は旧暦初二(もしくは十六)なのかあ」と、ぜひ土地公廟を参拝に訪れてみてください。
このブログでは、 毎年台湾で数十万人が参加し、最大の盛り上がりを見せる道教巡礼イベント「徒歩進香」を紹介しています。信徒でなくても、旅行者でも気楽に参加できます。
道教や廟に興味がある方、ウォーキングや賑やかなイベントが好きな方は、ぜひ一度参加してみてはいかがでしょうか。台湾のことがより好きになると思います。
※ 台湾文化を代表するイベント徒歩進香についてはこちらへ ※
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